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 岐路ひとつない山間の道路、そこに佐倉杏子は一人立っていた。

 既に日は落ちて辺りは暗く、道路灯だけがガードレール周辺を照らす。山々の影が夜空に貼り付いて、晦冥を照らす星影すら無慈悲に飲み込んでいた。闇の深さ故か、建造物に囲まれた街の中よりも空は遠く、高い。

 生息しているはずの鳥獣や虫も息を潜め、杏子の周りは物音ひとつ聞こえない。夜の静寂と表すにはあまりに異質かつ悍ましさを含んだ沈黙。常人の胆力では数分と保たずに腰が砕けるような重圧が、時間が経つにつれ強くなってくる。それは決して、心の内からくる恐怖だけが理由ではなかった。何かが、こちらに向かってきている。杏子は予感が確信に変わるのを静かに待つ。

 しばらく無数のメモと矢印のついた地図を眺めて、ソレが役目を終えた事を察すると、杏子はそれをクシャクシャに丸めて捨ててしまった。帰り道の事を考えれば失策だろうが、当人は全く意に介さず、やがて風が紙屑をさらっていく。後戻りを封じるように地図を奪った谷風は、どこか悪意を含んで笑っているかのよう。道路灯が一瞬点滅する。

 慣れない山道での探索で予定より時間がかかってしまった。探索範囲が広大すぎて、噂程度の情報を頼りに探すのは効率が悪く、ただ無謀だった。それでも杏子は根気よく数枚の地図と睨み合い、場当たり的な徘徊で地図の白紙部分を歩き潰した。

 そしてある目星がつき、途端に範囲は狭まる。潜みやすい山の中ではなく、車の往来がある道路上に的を絞る。「いる」とすればそこだった。本来の縄張りから大分離れた山沿いの道。最初は何故街でなく人の少ないこんな場所に、と思ったが、土地勘のない杏子が、何とかここに来るための目印に使ったある「施設」が、ヒントになったのだ。

 それでも縦横に曲がりくねった急勾配な山道、時間がかかるのはむしろ当然だったと言える。トンネルや坂道を何度も超えて、目的地と思わしきポイントへたどり着く頃には、半分に欠けた月が昇っていた。

 夜の冷えた空気は遠くの音も運んでくる。しかし杏子の周りからは何の音も聞こえない。木々を揺らす僅かな風もなく、明かりに群がる羽虫もいない。野生の鹿や狐、タヌキでも棲んでいそうな山だが、恐らく今日は会えずじまいだろう。

 もう一度、道路灯が点滅して、照明は段々と暗くなっていく。白い光は振れ幅のある異音とともに、明滅を繰り返しながら消えていき、代わりに杏子の持つソウルジェム、彼女自身の光が闇を照らす。

「アタシも、むかし家族とさ」

 独り言だ。とはいえ相手はいる、直に姿を現すだろう。ここは既に彼女のテリトリーなのだから。

「遊園地いったんだ、一度だけ」

 しかし語る相手がいても、それは虚しい独り言でしかなかった。佐倉杏子の声はもう届かないからだ。

「遅くなったな」

 何かが歩いてくる。車や靴の音ではない。ソウルジェムの光が届かない彼方から、ぺたぺたと小刻みな足音が近づいてくる。音の感じでは四足歩行の生物、しかしそのシルエットは明らかに自然界のルールから逸脱していた。

 完全に消えていた道路灯が、現れた異物に反応したのか息を吹き返す。急なライトアップにソレは怯んで退がった。照らし出されたのは、毛むくじゃらの犬だった。「犬」と呼べるのは毛の塊から伸びた四肢のみで、四方八方に伸びた体毛は風や慣性といった掟を無視して運動している。魔女と呼ばれるこの怪物は、前衛芸術作品そのままの姿を具現化していて、その道化じみた動きも、模倣された偽物にしか見えない。パッと見のデザインは愛らしいが、仕草のひとつひとつが空想上の化物より奇妙で薄気味悪い。杏子は無粋な演出をした道路灯を忌々しげに一瞥すると、怯える魔女に話しかける。

「ゆま」

 景色が歪む。魔女が結界を広げていく。目鼻口のない魔女が低くうなって威嚇の態勢をとる。体毛を逆立てて表す敵意すら、不出来な贋作みたいにから回りしている。注意深くこちらを見ているようで、実際はそうでない。

 魔女は人を襲う、人でなくとも襲う。敵意もなく、利益もなく、ただ本能のままに。

 他人の共感など度外視した奔放すぎる各々のルールで、対象を結界に引きずり込んで餌にする。

 この魔女はこの山道で人を襲っていた。共通点は家族連れで移動する車。分かっているだけでも今月に入って七世帯がこの山道で行方不明になり、目の前で消えたという証言もあって「神隠し事件」は少しだけ騒ぎになった。そして事件が起きるポイントは少しずつ移動していた。この先にある遊園地に向かって。

 結界が完全に展開すると、山々に囲まれた車道は石畳のような地面に変貌する。周囲は煌びやかな光と、目で認識できない正体不明の遊具が並び、辛うじて識別できるジェットコースターや観覧車、メリーゴーランドを連想させる「何か」から、ここが遊園地を模倣した魔女結界だと推測できた。何を真似たのかもわからない歪んだアトラクションを見て、杏子の表情が翳る。

 犬の魔女は、自分で展開した魔女空間に関心を移したようで、くるりと踵を返した。杏子は少し驚いて、追いかけようと一歩踏み出す。

 その瞬間だった。あちこちの遊具が宙に浮き、杏子めがけて飛んできた。

 体をひねって水飲み台のようなソレを回避し、杏子は後ろに跳んで何が起きたか確認する。

 結界の中のあらゆる遊具のような物が、地面から離れて浮いていた。ここはそういう結界なのだろう、魔法少女なら特に珍しがるような光景ではない。まだ変身もしていないのに、杏子は少しばかりの余裕を表情に映した。

 しかし巨大な観覧車がベリベリと土台をちぎって浮き上がるのを見れば、余裕顔は虚をつかれた焦りの顔に変わった。フワリと円盤は少しだけ浮かんで、すぐに地面に堕ちる。

 自重でフレームが軋んだのか、嫌な金属音が響き、回転を速めて、土煙と怒号と共に馬鹿げた勢いで杏子まで突っ込んでくる。

 身をよじる暇もなく、杏子の立っていた場所を観覧車は一瞬で通り過ぎて、何もかも押し潰した挙句、ぐちゃぐちゃなローラーコースターのレールに突っ込んだ。二つの遊具はフレーム同士が痛々しく絡み合い、めり込んで一体化する。地響きは鳴り止まず、やがてレールは観覧車を支えきれずに一部がひしゃげて倒壊し、遊具のフレームにひっかっかていた車が次々と崩れ落ちた。明らかに他の遊具やアトラクションとは趣の違う廃車は、その場違いさからひとつひとつが過去の犠牲者のものである事を物語っていた。

 犬の魔女はローラーコースターのレール上で、自分の尻尾を追いかけて走り回っていた。

 その姿に凶暴さや凶悪さは感じられず、しかしその足元にはおびただしい数の車がひっくり返って地面に突き刺さっている。犬の魔女は躓いて転ぶと、走るのを止めて観覧車に目を向けた。

 観覧車は、丸い骨組みだけしか残っておらず、人が乗る個室はひとつ残らず剥がれていた。それが先ほどの回転によってか、或いは最初からそうであったのか、必死に骨組みの頂上部にしがみついている佐倉杏子にとっては、全く興味の外だった。 既にその姿は変身を済ませ、赤いドレスに身を包んだ戦闘態勢に入っている。犬の魔女は少しだけ、杏子の方に関心を向けた、ように見えた。

 ガシャンッと大げさな音を立てて、魔女と杏子の間に車が落っこちる。犠牲者が乗っていたであろうその車が、全てのドアとトランク、ボンネットを同時に開き、中からカラフルな、首のないマネキンがぞろぞろと登場すると、杏子の前に立ちはだかる。意思が全く感じられない、人工物のような外見、察するにこの魔女の使い魔だろう。

 その動きは魔女を守る、というよりはまるで小さい子供から玩具を取り上げるような気配だ。自分を拒絶する何かを感じ取ったのか、魔女は再び杏子から視線を外すと、俯いたままトボトボとどこかへ歩き出した。その間にもスクラップになった車はどんどん降ってきて、その全てに使い魔がみっちりと詰まっていた。それの意味するところを想像してしまい、気分を害した杏子は唾を吐いて嘔吐感を緩和する。

 犬の魔女はどんどん離れていく、この広い結界の中でまた迷子を探すのは骨だし、何より杏子は一瞬たりとも魔女から離れたくなかった。

「邪魔すんな」

 マネキンは答えない。紙粘土のような多関節の体を揺らし、杏子を取り囲む。

 意思を持たない兵隊、魔女を祭り上げる使い魔。体力の消耗で気持ちが参っているからか、自分の忘れがたい過去を連想してしまう。この魔女に対して持っている罪悪感も手伝って、杏子の精神は少しずつ蝕まれていた。幾度となく払拭してきた過去のイメージを今一度振り払って、杏子は槍を握り、駆け出す。 赤い魔法少女が原色の使い魔を我武者羅に切り刻む。しかしどんどん増える使い魔を捌ききるには、相当の体力と魔力を消費しなければならない。レールを駆け抜ける暴風は、次第に勢いと速さを緩めていき、やがて……。

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 千歳ゆまと出会ってから、それほど経っていなかった。明日が来るかも不確かなその日暮らしの生活に、突然乱入してきたのが彼女だ。縄張りの外で魔女狩りをしていると、その魔女に親を食われたゆまと会った。余計なお節介をしたのが切欠で彼女に懐かれてしまった。

 以来せめて一人で生きていく術を身につけるまで、義理もないが一緒に行動する事にした。杏子は最初、そこそこに自立させたら別れるつもりだった。自分ひとりが生きるので精一杯なのに、他人の世話なんてできるわけがない。だからせめて、いずれ見つかる彼女に相応しい場所まで、ママの代わりが見つかるまで一緒にいてやるつもりだった。

 ならばなぜ最初から放っておかなかったのか、今の杏子にとってそれは、最大の後悔だった。

 ひょっとしたらコイツには優しい親戚がいて、もしかしたら誰かが引き取ってくれて、まだ小さいんだから、これから先で、人並みの幸せをつかめたかもしれない。ゆまの家庭環境が上手くいってなかったから、家族が死んだから、強くなりたいと言っていたから、自分の過去と、重ねてしまったから、放っておけなかった。

 しかし杏子にとって、それは理由の半分でしかなかった。何度もこうなった事を悔やむうち、自分を責めるうち、自問自答の果てに抑えきれない疑念が沸いた。

 あたしは、自分を誰かに肯定してほしかったんじゃないか?

 自分と似た境遇の子供を、一番辛かった時の自分に見立てて、教鞭をとる事で優位に立ち、今の自分を肯定するためにゆまを利用したのではないか。実際ゆまに頼られた時は、悪い気はしなかった。

 それで自分に教えられる事は「泥棒の仕方」「忍び込む方法」「嘘のつきかた」並べてみれば散々だ。

 ゆまは貪欲だった。生きることにも、強くなることにも、学ぶことにも真剣に取り組む。

 我が強く、手前勝手な一面も見られたが、大体のことは一回言えば理解したし、我侭も余り言わなかったため、子供特有のエゴだと思い、気にもとめなかった。

 だが他に類をみないほど頑固で、一度意見が対立すれば従わせるのに全く苦労した。

 喧嘩のネタで特に多かったのは魔法少女の事だ。自分もなりたい、杏子の役に立ちたい。何度窘めても、時に強く叱っても、それだけは変わらず、結局ゆまは魔法少女になってしまった。しかも原因となったのは、他でもない佐倉杏子が魔女に殺されかけた事だ。「杏子を死なせない」事を祈りにゆまは魔法少女となり、命懸けの戦いに身を投じた。

 自分が魔女に負けたから、ゆまを一人にしたから、生半可な気持ちで救いの手を差し伸べたから、ゆまは魔法少女になった。一生に一度の願いを佐倉杏子に捧げて。

 

 それから紆余曲折あって、自然のうちにパートナーとして組んで共に戦った。時には他の魔法少女と争う事もあったが、どんな奴が来ても、ゆまの強力な回復魔法をアテにして強行突破すれば、ダメージ差で負けることはなかった。

「ゆまは杏子のベスト・パートナーなんだよ」と誇らしげに吹聴する相棒に軽口を叩きながら、魔法少女なんて生き方も、そう悪くないと思い始めていた。

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 その日戦った魔女は強かった。油断していたつもりは無かったが、防御が疎かになった一瞬で手傷を負う。すぐにゆまが回復を施すが、もうお互いあまり魔力が残っておらず、態勢を立て直すために一度退くことに決めた。対策を練ってもう一度挑めば、勝てない相手じゃない。ここで魔力をさらに放出するより、作戦を立ててから確実に倒すほうが得だと判断したからだ。

 だが逃げ道を使い魔と障害物で塞がれ、背水の陣に陥ったため、自分が攻撃に集中、ゆまは回復に専念して一点突破する、いつもの必勝パターンで強引に包囲網をくぐり抜ける事にした。

 杏子は前へ前へ進んでいき、体中に深い傷を負っても回復魔法をアテにして敵陣深く切り込んでいった。体が傷つくたびに激痛が走る。防御を切り捨てたからこそ、受けるダメージも増大する。生身の人間が即死するような打撃と斬撃を無数に浴びながら、後ろにいるゆまを守るために我が身を盾にして相手が倒れるまで命を削った。そしてその度に、ゆまの回復魔法はすさまじい勢いで杏子の肉体を再生させる。

 魔法の力は魔法少女になった時の祈りに直結する。杏子を死なせないというゆまの祈りは、他に出会ったどの魔法少女にも当てはまらない程強力だった。

 怪我を治すとか、病気を治す祈りよりも、ずっと強力で直接的な「死なせない」願い。自分を守るために願いを使ったゆまのために、次は自分がゆまの未来を切り開くのだと、杏子は誓いを込めて目前の障害を切り払った。何度も、何匹も、後ろにいる相棒に背中を預けて。

 だんだんと使い魔は減っていき、魔女にも少しずつダメージが蓄積していく。もうすこしで抜けられる、上手くいけばこのまま倒せる。

”こんな大物が相手ならグリーフシードも手に入る。そしたら二人で分けよう”

 

 突然、空気が弾けて杏子の背中をぶっ叩いた。

 

 予期せぬ衝撃波に体の自由が奪われ、状況を確認できないまま杏子は使い魔たちと一緒に吹き飛んだ。衝撃はゆまのいた位置から受けたものだ。杏子がその意味を考えながら、地面に激突して転げまわる。

 痛みと苛立ちに襲われたが、ゆまの身に何かあったのでは、とすぐに推測し態勢を立て直すことに専念した。まず手から落としてしまった槍を多節棍の形に変化させて伸ばす。バラバラにほどけた柄の端を軽く掴んでジャグリングのようにそのまま振り回す。さっきの衝撃波で吹っ飛んだり怯んだりした使い魔達を、この隙をついて一気に撃破した。

 続いて使い魔達から孤立した魔女を、曲がりくねった槍で縛り上げて動きを封じる。これでこの結界からはいつでも脱出できるし、ゆまの無事を確認したら即座にそうするつもりだった。

 ゆまは爆発の中心にいた。熱や光は発していないが、紛れなく何かが爆発したはずだ。

 杏子を吹き飛ばした正体不明の衝撃波は、ゆまには全く影響を与えていないように見えた。

 しかし俯いたゆまの首の後ろ、ソウルジェムが粉々に砕けて、魔女の種グリーフシードが出現していた。

 ゆまの肉体は既に抜け殻となり、心は砕け散った。

 杏子は意味が分からず、目に見える事実を認識できずにいた。

 ソウルジェム、魂、魔女、ゆま、グリーフシード、魔法、絶望。

 様々な言葉が意味を結ばずに浮かんでは消えていった。

 魔法少女が魔女になるのは知っていた。実例を見たことがある。ソウルジェムが濁りきった時。絶望した魔法少女は魔女になる。

 ならばソウルジェムが濁る条件、それは魔法の使用。

 杏子は我に返って、自分の体と通り道を見比べた。傷一つない体、破けたドレス、血だまりが伸びた足跡、使い魔たちの死骸。使い魔たちと斬り合いを果たしていた場所は、杏子の流した血と倒した敵で惨憺たる有様だ。

 何度もバケツで水をこぼしたように、地面が赤を纏って光る。

 だが杏子の体には傷一つない。

 一目で死を想起せずにいられない修羅場と、五体満足の体、ゆまの回復魔法。

 自分の負ったダメージは、ゆまの貯蔵する魔力を大きく超えていた。杏子がその結論に辿り着くまで、時間はかからなかった。

 彼女の目の前で、相棒が魔女になる。

 

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 静かな遊園地モドキを、犬の魔女が闊歩する。

 きょろきょろと周りを見て歪なアトラクションに次々と興味を移していき、やがて飽きたように俯いて、また歩く。遊具はどれも寂しげな音や光で見るものを誘うが、犬の魔女は関心を抱きながらも決して遊ぶ事はない。その姿は捨てられた犬か、或いは迷子の子供が保護者を探す姿に似ていた。誰も遊んでくれない遊具達は、それでも懸命に客を求めて運転を続ける。

 人が乗れる大きさのコーヒーカップに、槍が降ってきて刺さった。長く伸びた柄には、焼き鳥や団子のように使い魔たちが串刺しになっている。カップの亀裂から使い魔の体液が吹き出した。

 犬の魔女は歩を止めて、槍を投げた当人に顔を向ける。

「よくたかりに行ったよな」

 ボロ衣を纏った魔法少女が、息を切らして立っていた。既に満身創痍で、軽く小突いただけで転んでしまいそうなほど体力を消耗している。

「マミの家に、ケーキ付きで」 杏子は呼吸を整えながら話を続ける。

 杏子の立っている場所はメリーゴーランドを模したアトラクションで、立ち入り禁止を表すようにバリケードが張られていた。犬の魔女が杏子に関心を持ち、そしてまた杏子を取り囲むように、使い魔が現れる。

 狭いジェットコースターのレール上では、場所故に数が限られていたが、この円形の遊具周辺は足場に制限がない。都会のスクランブル交差点のように、馬鹿げた数の使い魔たちが杏子の立つアトラクションを中心に並ぶ。

 使い魔たちはじりじりと距離を狭めていき、杏子は観念したのか膝をついて座り込むと、両手を握って祈りのポーズを取った。

 と同時に地面から巨大な槍が生え、メリーゴーランドを下から突き刺した。屋根まで貫通した巨大槍は音を立てて動き出し、メリーゴーランドをひっくり返った独楽のように回し出した。

 アトラクションは外部から働いた力で土台ごと高速回転し、バリケードのように絡まっていた多関節の槍が、遊具を巨大草刈機に変貌させた。穂先、鎬、柄、石突、部位を問わず凶器と化した回転槍が使い魔の体を削り取る。ある者はその場で地面に叩きつけられ、ある者は弾かれて柵にめり込み、またある者は砕けた体が弾丸になり仲間まで砕いた。

 石畳が割れ、のたうち回った蛇のような傷跡が無数に刻まれる。

 ついに使い魔は全滅し、結界の中は本体である魔女と杏子のふたりぼっちになる。短期間に家族ごと人間を襲って力をつけた魔女も、これ以上の増援は望めないだろう。震える膝を叩いて喝を入れると、杏子は槍を構えてゆっくりと歩き出す。

 アトラクションから漏れた照明が、杏子と犬の魔女を照らす。紫、白、桃色、黄色、緑と光は色を変えていき、最後に赤く光るとそこからまたループする。

 犬の魔女は動かず、杏子の接近を許す。やがて槍の先端が犬の魔女の目先まで近づいて、杏子の歩が止まった。

 杏子が得物を振り上げる。

 彼女の胸を飾るソウルジェムは、その輝きを失いつつあった。魔法の乱用によって体力と魔力を消耗した杏子には、最早一本の槍以外に戦力がない。

 魔女は屈むように前足を折り、その場にひれ伏した。杏子が最後に残った力をふり絞って、槍を振り下ろす。

 振り下ろした刃は、魔女のフカフカな頭を掠めて石畳を砕いた。振り下ろす寸前、刃先に奇妙な衝撃を受けて僅かに軌道を逸らしてしまったのだ。

 それがこの魔女の能力だと杏子は直感で理解した。ゆまが魔法少女だった頃の武器が、巨大な飴玉を模した、衝撃波を放出するスレッジハンマーだったと思い出したのはその後だ。

 使い魔は全て倒したが、この魔女とは全く戦っていない。万全の状態の魔女と、満身創痍の魔法少女。佐倉杏子は経験から、それが魔法少女が死ぬ主な負けパターンだと知っていた。

 屈んでいた犬の魔女は、アフロヘアーに似た頭部を杏子に打ち付ける。見た目の柔らかさとは裏腹、それこそ腹部が裏返って背中が肺に吸い付くような衝撃を受ける。

 杏子は一瞬、体が幾重にも分身して重なったような錯覚を起こした。魔女が打撃の反動によって後方に飛んでいく。それはとてもコミカルで、滑稽で、愛らしい動きだ。

 しかし杏子はヒットバックせず、その場に崩れ落ちる。魔女の力による体当たりは、威力を外に漏らすことなく、規格外の破壊力すべてを杏子の体に封じ込めた。それ故ダメージは長く続き、時間が経っても抜けることがない。後からくる痛みが杏子の体を内から握り潰す。喉がポンプのように血液を汲み上げて、口から発射する。

 攻撃を喰らってすぐに、建築物を解体する鉄球クレーン車を想像した杏子だったが、どちらかというと自分を杭に見立てたモンケンが近いな、と考えを改める。

 背中側の肋骨がズレたか割れたのだろうか。それだけならまだ救いはあるが、内蔵が全て無事だと考えるのは楽観が過ぎるだろう。生憎それを確認できるほど、杏子は医療も回復魔法も学んでいない。これまでも頼りになる相棒と、頼りになりたがる先輩に任せていたからだ。

 先を考えないで暴れ、油断して攻撃を喰らい、そうなった際の準備を怠けた。とは言えそれら全てを単独でカバーするのは初めから無理な話で、短期間に大勢人を食っている魔女が相手なら、魔法少女も複数人で挑むのが当たり前だった。

 もしも杏子が一人でなければ、もしもゆまが傍に居てくれていたら、ここで体力と魔力が尽きる事も、安易な攻撃を受ける事も、傷ついて動けなくなる事もなかった。

 だが杏子はそれを望むことはできない。いま自分の傍に立ってくれるのは、地面に刺さった自前の槍と敵の魔女だけだ。

 杏子が武器を握る。掴むところの定まらない、握力がなければどこかに吹っ飛んでしまう不確かな柄だ。ゆっくりと体を起こして深呼吸すると、すぐに咳き込んで赤黒い塊を吐き出した。飾り気のない石突が、疲弊した杏子の顔を映す。

 体力はジェットコースターで使い果たした。魔力はメリーゴーランドで使い果たした。気力はたった今、絞りきった。

 犬の魔女は次の攻防に備えて、姿勢を低くして身構えている。次にあの攻撃をモロに喰らえば、杏子の体を支える糸がぶっつりと切れ、文字通り木っ端微塵になるだろう。

 つまり死ぬ。

 尤も今この瞬間紛いなりにも生存している事が、既に幸運なのだが、放っておけば魔力切れで、いずれは動けなくなる。

 さらに犬の魔女は先の体当たりで大きく距離を取っている。接近する術も遠間から攻撃する力も残っていない杏子に対しては、遠く離れるだけで、威力を伴った牽制になる。

「久しぶりに情けないカッコ、見せちまったね」

 内容は軽口だが、ガラガラの声で命を賭して呟く。きっと最後の会話になる。予感だが、まず外れることは無いだろう。

 杏子はドレスの内側についたポケットをまさぐって、何かを取り出す。

「ついでにもう一つ、見せてやるよ」

 それは黒いモヤを纏った、孵化寸前のグリーフシードだった。

「ダッセー必殺技」

 魔女が杏子の魔力回復に気づき、トドメを刺しに向かってくる。先程までの滑稽な仕草ではなく、野獣を彷彿とさせる洗練された突撃だ。

 杏子が回復したのは一瞬だけ、ひと呼吸に満たない時間と気休め程度の魔力。

 だが十分だった。狙いは回復だけでなく、手詰まりな膠着状態を魔女に先手を取らせて破る事だ。限界まで使ったグリーフシードを投げ捨てて、地面に刺さった槍を引き抜く。

 一本の槍が、歪に折れ曲がって伸びる。鎖につながれた多節棍、これがこの武器本来の姿だ。

 ぐるりと体を回して、数珠つなぎになった槍で魔女を絡め取る。足を封じられて尚、魔女の勢いは止まらずにそのまま前進した。

 空気を切り裂く音と共に、魔女は衝撃波を連続で放ちながらジグザグに動いて束縛を解こうとする。その反動が杏子の手元まで伝わり、何度も槍を落としてしまいそうになる。

 大物がかかった釣竿と、鎖につながれた犬、その両方を想起させる光景だ。

 魔女の動きに合わせて引っ張られる体を、肩幅以上に開いた足で踏ん張って何とかその場に留まる。杏子はうめき声を上げながら、槍を握る掌に喝を入れた。凄まじい圧力に耐え切れず、カカトが石畳を踏み砕く。

 やがて手近なアトラクションに魔女が激突するも、やたらめったら、四方八方に衝撃波を打ち飛ばして、片っ端から破壊していく。このまま走り続けられたら先に尽きるのは杏子の体力だ。

 だから渾身の力で魔女の体を持ち上げて、即席モーニングスターのように思い切りアトラクションに叩きつけた。

 手に余るパワーが対象物に突き刺さる感覚、予想以上に心地いい手応えを感じながら、トドメを刺すために杏子は魔女めがけて突っ走った。

 魔女は崩れる鉄骨や木片を、ロケット花火のように衝撃波で打ち飛ばしつつ態勢を立て直す。杏子とて疑うまでもなく瀕死の状態、あと一撃決定打が入れば魔女の餌だ。

 たった一人で、自身に飛んでくる破片を避けつつ走ってくる杏子が、やがて二人、三人と数を増やしていく。

 動揺する魔女、五人ほどに増えて同時に攻撃を仕掛ける杏子。杏子の魔法は幻術。かつて封印していた魔法は、ブランクを感じられないほどに研ぎ澄まされていた。

 これからは一人で戦わなければならない事を認め、彼女はここ数日で随分と鍛え直してきた。

 魔女は獲物の増殖に驚きながらも、衝撃波で分身を全て吹き飛ばすべく構えた。しかし衝撃波は威力を増すごと、速度を増すごと、細く鋭い円錐になる。目に見えない広範囲への打撃というイメージとは逆に、実際の攻撃は鋭利で単発。多人数を相手にするのは不可能だ。それもバラバラに突っ込んでくる杏子は、幻術ながらそれぞれに攻撃力がある。

 手の内を見せ、殺し損ね、魔力を回復された現在、魔女と杏子との有利不利は完全に逆転した。

 

 魔女が衝撃波を発射する。まず一体、杏子の偽物が言語にならない声を上げて首を削がれて消えた。

 再び狙いを定め、一番近い杏子に衝撃波を放つ。槍が届く寸前で杏子の腕がもげて、崩れ落ちた木片に突き刺さった。

 しかし両腕を失った杏子は、怯むどころか今度は魔女めがけて蹴りを撃つ。これも当たる寸前で衝撃波に遭って分身が消える。

 残りは三体、しかし一体に手古摺ったぶん他の分身も接近している。分身の一体が武器を多節棍状にし、再び魔女を絡めとろうと試みる。武器に衝撃波を使っては、次の攻撃を撃つ時間を稼がれてしまい、分身を捌ききれなくなる。魔女は足場の悪い瓦礫の上で器用に避けて、自分から一番近い杏子を破壊する。

 それも分身で、残り二体。

 二分の一で攻撃は同時、方向は別々。最早飛び道具で防ぐのは無理な以上、魔女は一体を攻撃してもう一体の攻撃を回避する事に専念する。

 右の杏子と左の杏子、外見で本物を見極めるのは恐らく無理で、魔女は運任せに右に衝撃波を撃った。しかし一瞬の躊躇でタイミングがばれたのか、回避されて左右から槍で挟まれる。

 左右の杏子が槍を盾にして激突した。

 杏子の攻撃は空振りで、魔女は跳躍して二人の杏子の真上にいる。そして真下に向かって一発、最大級の衝撃波を放った。

 地面が深く押しつぶされて、杏子だった二つは地面のシミになって消える。すり鉢状にできた窪みの中心に魔女が降り立つ。

 これで目前の杏子は全て消えた。戦いで巻き上げられた破片と一緒に、間もなく巨大なアトラクションの残骸が崩れ落ちてくる。今はゆっくりと浮遊しつつ降下しているが、少しずつ落下が速くなっている。それらは全て、新しくできた巨大クレーターに漏れなく収まるだろう。

 せっかく倒した獲物だが、暢気に肉塊を食事していれば、モロに瓦礫を被ってしまう。

 それぐらいで魔女が死ぬことは無いが、これ以上のダメージを避けるため、下敷きにならないよう、名残惜しげに魔女が移動しようとした。

 背後から槍が突き刺さる。

 魔女は完全に串刺しになっていた。

 原色の体液を撒き散らして、世にも恐ろしい悲痛な叫びを上げる。鮮やかな緑色の液体が、槍を伝って杏子の手を撫でた。まるでインクだ。

 杏子は五人ではなく六人に分身していて、最後の一人は他の五体が消滅するのを確認してから飛び出した。作戦と呼ぶにはあまりに杜撰で幼稚だが、姿を上手く消した事で切り札を効果的に使う事ができた。

 深々と刺した槍を魔女から引き抜いて、息を吸って構えなおす。体を貫かれた魔女はぴくぴくと痙攣して、姿形は違えど犬にそっくりだと感じた。かわいそうな、さびしそうな、つらそうな、見るだけで同情が湧いてくる犬の魔女。

 杏子の目は虚ろで、どこを見ているのかわからない。なにを見ているのかわからない。

 杏子の槍が魔女を十字に切り裂いてトドメを刺す。綿を裂くような、木を削るような、形容しがたい感覚を槍越しに握る。犬の魔女はカラフルな体液を、ちぎれた体の色々な臓器から噴出した。杏子の顔にかかり、胸にかかり、目に入り、ソウルジェムを染める。

 塞がれた目に、色がついた心に、かつての相棒の幻が浮かんだ。 遊園地を一緒に訪れて、ジェットコースターで酔って、メリーゴーランドに二人乗りして、海賊船に乗って、アイス食いながら観覧車で次にどれに入るか選んで、オバケ屋敷でゆまが泣き出して、ピエロから風船もらって、手を繋いで帰る。親子みたいに、姉妹みたいに、家族みたいに。そんな、幻。

 ああ、そうか

 と杏子は思った。自分はこんな山奥でフラフラと、魔女はこんな結界でフラフラと、何を探してこんな処にいたんだ。

 つまりはそれが欲しくて、こんなところに来たんだ。

 それは手に入らなくて、それは目に見えなくて、それは二度と戻らなくて、それは確かに存在した、彼女たちの絆。

 魔女の体が光になって消える。決着はついた。

 瓦礫が雨のように降ってきて、先ほど魔女に打ち上げられた大きな鉄柱、木片がクレーターを埋める。

 それを予測していながら、杏子はその場に大の字に倒れて、動かなかった。極度の疲労と瀕死の重傷、血液と一緒に活力が抜けていき、杏子の心を溶かす。蟻地獄に沈んでいくような体の重さを、杏子は心地良いとさえ思っていた。

 やがて一際大きな瓦礫が落ちてきて、指一本動かない少女は無残に潰れるだろう。緩やかに流れる時間の中、コマ送りで迫る死の予感を瞼で数えながら、佐倉杏子は目を閉じて、その身を砕き、潰し、突き刺さり、圧し潰して殺傷する瓦礫を受け入れた。

 魔女の空間が消える。残ったのは新しいグリーフシードと、ボロボロになった佐倉杏子。

 瓦礫に潰される直前に結界が消えたのだろう、山道の道路灯だけが明るく、杏子と周りを照らす。

 杏子はもうすっかり、何もかもどうでも良くなって、ただ道路灯を目が灼けるのも構わず眺めていた。グリーフシードは手に入れたが、自分の濁ったソウルジェムを回復させる気は起きなかった。

 それどころか、このまま自分も魔女になってしまうのが、スジの通ったシメだと考えていた。

 鈴虫の鳴き声があちこちで響く。それが求愛行動で、伴侶を探す手段なのは何となく知っていたが、死体同然の様相でライトアップされた自分を放っといて、自分の嫁探しとは熱心なものだと杏子は思った。

「薄情モン」

 考えた事がそのまま声に出る。それが鈴虫に対してなのか、自分を置いていった者達に対しての言葉なのか、杏子にもわからない。

 ゆまは杏子の役に立ちたいと頻りに言っていた。その本質は恩返しや愛情表現ではなく、単に置いていかれる寂しさと構ってもらえない辛さを知っての事だったのだろう。

 これも勝手な推察だが、彼女にとって誰かと一緒にいられるという事は、その者にとって「役に立つ」という事なのだ。両親からも愛されなかった彼女が、他人から愛を受け取るための手段。

 だから非力な子供でありながら、ゆまは自らがボンクラである事を許さなかった。理想と現実のギャップを埋める手段、その手っ取り早い解決法として、魔法少女の契約を提示された時点で、ゆまは魔法少女になる事を決めていたのではないだろうか。 だとすれば遅かれ早かれ、こうなっていた。

 その後始末をつけるのが自分だっただけの話だ。

 そんな想像の行き着く先が、結局は自分への慰めだと気づいたとき、杏子はもう頭を使うのも嫌になって、何もかも捨て去ってただ自分の最期を待った。

 ただひとつ確かなことは、彼女達は互いに互いを想い、大切にしていたのだ。ゆまは心を捨て、友の命を守った。杏子は命を捨て、友の心を守った。もしその結果が何も残らなかったとして、彼女達はそれをせずにいられなかった。

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 誰かが泣いていた。

 それが過去の走馬灯なのか、今の景色なのか判別がつかずに、薄らと瞼を持ち上げる。

 後光を纏った女の人がいた。

 実物ははじめて見たが、それが天使であることは理解できた。ああ、なんだ。魔女になる前にあの世に来れたんだ。割と本気でそう思ったが、あたしが目を覚ましたのに気づいたそいつは、あろうことか、拳で胸を叩いてきやがった。

 痛い。

 もう一度叩かれる、痛い。もう何度も何度も叩かれて、これ以上叩かれたら死んでしまうと考えて少し怖くなった。

 やがて呆けた頭に血が回って、女の顔がよく見えるようになる。一瞬天使か天女かと思ったが、正体はあたしの先輩、巴マミだった。場所も山道の真ん中ではなく、どこかの病院のようだ。一番近い病院は三滝原のだから、恐らくそこだろう、点滴が体に染み渡る。

 どうも死に損なったようで、その理由はマミがあたしを見つけて、魔力も怪我も癒してくれたからに違いない。少し照れくさいし、予定がずれてしまった。

 とりあえずこれ以上叩かれるのは御免なので何か言って止めさせなければならない。

「余計なことすんな」

 余計なことを言ってしまった。

 一瞬、ぴたり。とマミは動きを止めたが、すぐにさっきより強く、速く、拳を打つ。

 やめてくれ、死んでしまう。揺れる体から、どふんどふんと衝撃の強さが耳に伝わる。

 一日中山の中を歩き回っていたのを、日中に複数人に見られていたらしく、警察に特徴を伝えられ、山道を通る車が私を踏みそうになって通報したらしい。とりあえず野生の鹿か猪に襲われたって事になってるのだとマミから聞いた。「なんで一人で補給の目処も立たない所まで戦いに行ったの?」

 マミは落ち着いた風を装って、りんごを剥いてくれている。また下手なことを言って怒らせたら、今度は刺されかねない。逃げ場のない密室で、逃げられない状況でマミに説教をされるのは昔から嫌だった。大して歳の変わらない少女に、理屈と正論で徐々に追い込まれていくのはそれはもう惨めだ。反論の余地がなくなるまで徹底的に論を進めたあと、反省させられるまでマミの説教は続く。でも今は、そんな面倒くさいやり取りだって有難かった。

 あたしはマミに背中を向けてシーツに潜る。

「行きたくなったから、行った」

 マミが顔を上げた、ような気配がした。

「どうせいずれ通る道だ」

 りんごの皮を剥く音が止んで、サクサクと切り込みを入れる音が聞こえた。

「そう、ね」

 マミがりんごを齧る。

「でも、いつかは今じゃないわ」

 あたしは身を起こして、切ったりんごを受け取って齧る。

 まだ甘くない、大して美味くない味だ。

 熟す前にもがれたりんご、かといって時間が経っても味は落ちて腐るだけ。

「まだ道は続いてる」

 不味いりんごを糧にしながら、あたしは既に明日からのグリーフシードのやり繰りに考えを巡らせていた。生き延びた以上、長い戦いの日々は続く。

 ほんの少しの油断で簡単に途切れる、りんごの皮みたいに薄っぺらい明日が永遠に。

 だけどどこまで道が長くても、きっと違う国には行けないんだ。丸裸になったりんごが、自分たちを嘲笑った気がした。

 

 

<了>

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